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福岡地方裁判所 昭和29年(行)3号 判決

原告 久保清こと金大河

被告 香椎税務署長

主文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

被告が原告に対し、昭和二十八年十月十六日なした酒税金九千四百五十円の納税告知処分は之を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求むる旨申立てた。

二、被告

主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方に争ない事実

一、同年十月十六日被告は原告に対し、原告が密造にかかる焼酎及び合成清酒を所持していたとして、酒税金九千四百五十円の納税告知処分をなし、同日その旨原告に通知し、同月十九日原告は之を受領した。

二、同月二十五日、原告は被告に対し右処分につき再調査の請求をしたが、被告は原告に対し右請求につきなんら決定の通知をしない。

第三、当事者双方の争点

一、原告の主張

原告は農業に従事せるものであつて、酒を密造しかつ所持していたことはない。従つて、原告に対する前示納税告知処分は違法であるから取消さるべきである。

二、被告の答弁

(イ)  原告の主張事実中、原告の職業は不知、その余の事実は否認する。

(ロ)  昭和二十七年十二月二十三日、香椎税務署収税官吏鈴木和人等が、適法な臨検、捜索、差押許可状に基き、原告肩書住居を臨検、捜索した結果、原告は密造にかかる焼酎二斗七升二合、合成清酒一斗八升、及び密造酒類の原料である麦麹六斗五升を所持していた。よつて原告は右密造酒類の所持人として納税の義務がある。しかして、右酒類は検定の結果、焼酎は酒類級別決定ニ関スル告示(昭和十八年四月一日大蔵省告示第百三十五号)四の乙類に、合成清酒は右告示ニの第二級に該当するものであつた。従つて、その酒税額は、焼酎につき昭和二十七年法律第六十一号による改正後の酒税法第二十七条第一項の六の乙類、第二十七条の三を、合成清酒につき、同法第二十七条第一項の二の第二級、第二十七条の三をそれぞれ適用して算出するに、焼酎二斗七升二合に対し、本税三千七百八十円、加算税千三百八十七円、合成清酒一斗八升に対し、本税三千二十四円、加算税千二百六十円、合計九千四百五十円(一円切捨)となるのであるから、原告に対する納税告知処分は違法でない。

三、原告の被告の答弁に対する反駁

被告主張の密造酒類は、原告居宅の一室を貸していた訴外鄭海鵬の所有でありかつ鄭が同室に保管所持していたものであつて、原告は鄭の所持になんら関与したことはない。

第四、証拠〈省略〉

理由

成立に争ない甲第二号証(一部)、乙第二、第六号、第十(一部)号証、証人本岡孝文、藪中泰弘の各証言を綜合すると、昭和二十七年十一月二十三日原告の肩書居宅が臨検捜索された際、その天井裏からカメ、ツボ、一升瓶等に入つた密造にかかる被告主張の数量の焼酎、合成清酒が発見され、中二階の藁の中から仕込み初めて一週間位たつたまだ醗酵中の麻袋に入つた麹が発見され、さらに右居宅の一隅の藁小屋から出来上つて三、四日たつたもろぶた六十枚に入つた麦麹が発見され、その他酒精計等いづれも差押えられたこと、右は原告の使用人として昭和二十六年末頃から原告方に同居していた鄭の直接密造にかかるものであり、鄭は同居以来密造(原告方で麹を製造しこれを他に依頼して製成する方法)を継続しこれが製品を原告方に保管していたものであるが、原告は鄭が原告宅で密造酒類の製造に従事し且つこれを同居宅に保管することを容認していたこと、鄭は同年十二月八日九大附属病院に入院し、捜索の日の翌日である同月二十四日右病院で死亡したことが認められる。この点に関する成立に争のない乙第五乃至第九号証には右認定に反するかの記載部分が存するが、これは藪中証人の証言によつて該認定を左右する資料とはなり得ないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。してみると、原告は右密造酒類を鄭のために保管していたものというべきであるから、原告はこれが所持人として、その石数に応じ酒税を納める義務があるといわなければならない。この点に関する前顕乙第十号証の記載の一部は右判断をなすにつき何等の妨となるものでない。

そこで、右密造酒類は被告主張の検定の結果の如きものであつたことは原告において明かに争わないから之を自白したものとみなし、原告の所持にかかる焼酎につき、昭和二十七年法律第六十一号による改正後の酒税法第二十七条第一項の六の乙類、第二十七条の二を、合成清酒につき、同法第二十七条第一項の二の第二級、第二十七条の二をそれぞれ適用して酒税額を算出すると、焼酒二斗七升二合に対し、本税三千七百八十円、加算税千三百八十七円、合成清酒一斗八升に対し、本税三千二十四円、加算税千二百六十円、合計九千四百五十円(一円は切捨)になることが認められる。そうであるならば、被告の原告に対する前掲納税告知処分はなんら違法なところがないといわなければならないから、結局原告の本訴請求は失当たるを免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野謙次郎 中池利男 石丸俊彦)

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